三崎恵水産 石橋悠さん
地域の食材を活かした加工者が増えれば、本当の地産地消につながる

「株式会社三崎恵水産」は、三浦半島の最南端、三崎漁港から目と鼻の先に浮かぶ城ケ島にあるマグロ問屋。世界に向けてジャパニーズブランドのマグロを発信する傍ら、地元三崎の手土産として人気の「まぐろコンフィ」の開発など、グローバルとローカルの両立をコンセプトに奮闘を続けています。そんな三崎恵水産のオンラインショップ「FISHSTAND」を手掛ける石橋悠さんを訪ねました。

「人間は食べた物で生かされている」と教えてくれた、三浦半島の食材
石橋さんの出身地は茨城県。学生から社会人時代を東京で過ごしたのち、家業のまぐろ問屋の二代目であるご主人との結婚を機に三崎に移り住みます。それまでは音楽関係や広告関係の仕事に従事。寝るためだけに終電で家に帰ってはまた仕事、そんな生活を繰り返していたそう。
外食やコンビニばかりの自炊とは縁のない生活から一転。三浦では食材の美味しさに驚く日々を送ります。お気に入りの農家さんや行きつけの直売所ができ、3人のお子さんの子育てを通して食の安全にも気を遣うように。「食べた物で生かされている」と実感するようになったと言います。
子育てに専念すること約10年。ようやく上のお子さんの手が離れると、そろそろ自分自身のライフワークを探したいと思い始めたそう。ちょうどその頃、世界に向けて三崎のマグロを広めているご主人から、マグロを使った家庭用の加工品が作れないかという話を持ちかけられます。
女性目線の発想で!若い人や女性でも楽しめる加工品に挑戦

三崎の代名詞といえば新鮮なマグロ。メディアでも度々取り上げられ、多くの観光客がマグロを目当てに三崎を訪れています。三崎のマグロブランドの価値を高めるべく、地域ぐるみでさまざまな取り組みが行われている今、石橋さんがひらめいたのは「まぐろコンフィ」の販売でした。良質な素材を生かした気の利いた手土産が三崎には少ないと感じ、若い人や女性が親しみやすいマグロの加工品を作りたいと思ったのがきっかけです。
自社でしっかりと目利きして刺身でも食べられるクオリティのマグロと、良質な調味料を使い、調理不要で開封してすぐに食べられるのが魅力。三浦のマルシェや友人のネットワークを通じて手売りしたところ、美味しくて体に良いものを探している忙しい子育て世代の女性に特に好評を得ることに。
その後、この取り組みが経産省の「地域産業資源活用事業」の助成対象として認定されたのを機に、水産加工事業の拡大を決意。三崎恵水産の1階に専用の工房を整えて、本格的なスタートを切りました。
自分が「ワクワク」しながら、誰かに贈りたくなるものを

現在、コンフィはマグロのほかにカジキ、サバも加わり三種類がラインナップ。地元の農家さんの野菜とコラボレーションした商品も。オンラインショップ「FISHSTAND」では、季節限定ギフトや家族の人数に合わせて選べるセット商品なども販売しています。「FISHSTAND」のミッションは、これまで培ってきた三崎マグロのブランドを現代の食生活やライフスタイルに寄り添った形で継承し、その美味しさを伝えることだと言います。
「マグロは刺身のイメージが強いですが、頭から尾までさまざまな特徴があり、多様な食べ方を楽しめます。オンラインショップで販売する商品を通じて、まだ知らないマグロの魅力を女性目線で発信していきたい」と石橋さんは意欲を見せます。
コンフィがギフトとして人気なのは、おしゃれなイラストが目を引くパッケージの効果も大きいようです。
ビジュアルで魅せることにもこだわり、「地元の人たちが三崎のちょっといいものとして紹介したくなり、お客様がワクワクしながら誰かに贈りたくなる」デザインを重視。また、マグロのクオリティがしっかり伝わるよう、あえて商品の中身が見えるパッケージにしています。
「マグロ=Maguro」と呼ばれる日を夢見て

ところで、パッケージを見るとアルファベットで「Maguro Confit」と書いてあるのにお気づきでしょうか。確か学校では「マグロ」の英語表記は「tuna(ツナ)」だと教わったはず。ではなぜ、あえてマグロをローマ字表記しているのでしょうか。
そこには、石橋さん達の熱い思いが込められていました。
商品を説明する際には「ツナ」という表現も使いますが、それはツナ缶として日本でもお馴染みの言葉だから。マグロは欧米諸国で加熱して食べるものとして定着していますが、近年の日本食ブームと共に厳しく目利きした鮮度の高いジャパンクオリティの「マグロ」が海外で広まり、「maguro」が全世界の共通語になることを願っています。
日本の伝統的な「調味料文化」も継承していきたい
「まぐろコンフィ」は、下ごしらえしたマグロをじっくり一晩寝かせるなど工程に手間がかかります。それでも人の手で思いを込めて作りたいので、製造数が増えた今も自社での手作りにこだわり大量生産はしていません。 一方で冷凍品のラインナップ拡充に力を入れています。すでに、三崎の加工品として定番の「マグロの漬け魚」を、伝統製法にこだわった調味料を使って展開。カレーやショウガを利かせた新商品も試作中です。
実は、以前から日本の各地にある素晴らしい生産者や蔵元を訪ね歩くのが趣味だという石橋さん。日本が誇る伝統調味料の手仕事を残し、本物の味を子どもたちに受け継ぐことも、石橋さんの願いの一つです。
三浦半島の食の可能性に期待をこめて

最後に石橋さんが望む“三浦半島の食”の在り方について伺うと、 「地域に人を呼び込みたいと思う反面、“食”を観光業としての位置づけだけでなく、地元の食材を地域の人達でもっと循環させていけたらいいなと思います。欲しいものやサービスを地域に住む自分たちの手で作り、域内消費していくという事です。三浦半島は市場が近いので、農産物も水産物も中央市場に行きがち。地元の食材を使って、お年寄りや忙しいママ世代に惣菜やお弁当を届ける、給食にもっと多用してもらうなど、地域に住む私達自身がもっと嬉しく楽しく生きていける取り組みをしていきたいですね。」と、三浦半島を想う石橋さんならではの目線でお話ししてくださいました。