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三富染物店 三冨由貴さん

人の気持ちを伝える「大漁旗」「飾り旗」、
その文化を知ってもらい、もっと広めたい
三富染物店 三冨由貴さん

創業190余年の歴史をもち、神奈川県で唯一「大漁旗」を製作している「三富染物店」。江戸時代は幕府の御用職人として戦の幟(のぼり)や藍染で半纏などを染めていました。その後、大漁旗を染めるようになり、現在に至ります。 歴史ある看板を守り、「かながわ名産100選」にも選ばれている技術を継ぐ、七代目三冨由貴さんに大漁旗への想い、地元三浦の活性化への願いなどを伺いました。

大漁旗は贈る人の「真心」「願い」が込められている

沿岸・沖合漁業の拠点として知られる三崎漁港。その船着場から歩いてほどない場所に大漁旗を製作する「三富染物店」はあります。創業は天保4年(1833年)。およそ190年にわたり受け継がれてきた伝統技能で、すべて手作業で一品一品心を込めて染め上げています。店を訪ねると、七代目の三冨由貴さんが穏やかな笑顔で迎えてくれました。
店内の壁にはダイナミックなデザインの大漁旗が飾られ、出産や結婚のお祝いに用いられる「飾り旗」、お土産用の手ぬぐいなども陳列されています。大漁旗は、船主に親族や関係者が贈るもので旗には贈り主の名が入っています。帰港時に大漁を知らせる合図として掲げられたのが始まりで、その後進水式や出漁の安全祈願などにも用いられるようになった「縁起もの」です。そこには贈る人の「真心」「願い」が込められています。
縁起ものの大漁旗はいつしか祝いの場でも重宝され、さまざまな飾り旗が贈り物として定着し、人生の節目を彩るようになりました。「大漁旗も飾り旗も、人の気持ちを伝える意味合いがとても大きいのです」と三冨さんは言います。

大学3年で江戸時代から続く伝統技能を継ぐことを決意

三冨さんが家業を継ぐ気持ちを固めたのは、大学3年で就職活動に向き合ったとき。興味のある進路はほかにもありましたが「家業のことは、心のどこかでずっと気になっていました」。
両親から継いで欲しいと言われたこともないし、プレッシャーもありませんでした。三冨さん自身が「父の仕事を間近で見ていて、真っ白い生地から、鮮やかに躍動感ある絵柄に仕上がるのを凄いと思っていたし、お客さまが喜んでくださる姿が目に焼き付いていた」ことなどが、この道へ進むことを決意させたのです。
実は当時、気になっていたことがひとつありました。「絵を描くのがあまり好きではなく、中学のときの美術は10段階評価で2でした」と三冨さんは苦笑します。今では笑い話ですが、上手くなろうと努力しても結果につながらないことから、絵に苦手意識をもち大漁旗の図柄を描くことへの不安を抱いたのです。
「一生懸命やれば大丈夫だ」という父の言葉、「始めから上手な人はいないから、地道にやっていけばいい」という周囲の励ましが背中を押してくれました。

新しい図柄やデザインを加味して、時代のニーズに応える

大漁旗は「下絵」「糊置き(のりおき)」「色付け」「糊落とし(のりおとし)」「乾燥」「仕立て」の工程を経て完成します。修業時代に苦労したのは、最初に教わったのり作り。糠(ぬか)ともち米を擦った粉を調合し煮て作る独特の作業です。早く柔らかくしようと水を足すタイミングを誤るとだまになってしまう。創業から変わらないやり方で安定したのりを作り「糊置き」を行うことで仕上がりが良くなります。三冨さんはこの習得に十数年かかったそうです。「下絵」や「色付け」にも地道に取り組み、父の技を目と体で覚え、染物職人として腕を磨いてきました。
現在は「かながわの名産100選」にも選定される伝統工芸として高い評価を得、県外からの依頼も多くあります。近年は時代の流れにともない、図柄や配色にも変化が生まれています。たとえば基本となる図柄、配色はありますがアレンジを加えたり、オリジナルデザインによる製作もあります。「つくり方は変えず、目的によって用途を変える、それは大歓迎です」。

もっと知ってほしいから、「染付体験」を開催

今でこそ飾り旗も少しずつ浸透していますが、それでも“大漁旗は漁師さんしか作れない”と思っている方も多いでしょう。「どなたでも作れるし、伝統工芸の技術や文化を知って欲しい」という思いから行動に移したのが、お店で開催している「ミニ大漁旗の染付体験」です。
希望者はホームページから随時申し込むことができ、当日は江戸時代から変わらない技法で色付けを行い、ミニ大漁旗を完成させることができます。
三冨さんは体験メニューを通して伝えたいことがいくつかあります。それは大漁旗に触れることで文化を知ってもらう、どのような技法で作られているか知ってもらう、贈る方に心を込めて作ることを知ってもらう、ということです。
参加者は染付体験を通して、印刷では生まれてこない風合い、手作りならではの温かみといったものを実感することができるでしょう。

三浦半島の良いところを出し合って連携して発信する

大漁旗の文化を「一般化」したいという思いと同時に、三冨さんには地元三浦の活性化に貢献したいという熱い気持ちがあります。三浦には海と山、その自然が生んだ漁業と農業という財産があります。
三冨さん自身、子どもの頃から日常的に地元で獲れるサザエなどの貝類、磯魚を食べて育ってきましたが、後年それがいかに贅沢なことなのか知ったといいます。
「三浦半島は観光資源が多くあるなかで、ひとつのお店や会社だけで何かに取り組んだり、盛り上がったりするのではなく、漁業や農業、グルメや文化などが連携して、みんなで盛り上げていくことで、観光客の方が何度も足を運んでいただけると思います」と力強く言います。
たとえば収穫体験を通して生産のバックボーンを実感してもらったり、その後を受けて飲食店で収穫物を食べられるといったコラボ企画を行ったりと、さまざまなアプローチで付加価値を高め、三浦半島の魅力を発信することが大切で、三冨さんも具体的なアプローチを地元の仲間と共に模索したいと考えています。

デザイナーさんとコラボして新しい商品にチャレンジしたい

最後に、本業に関してのこれからの抱負は、と話しを向けると三冨さんは間髪入れずに「デザイナーさんとのコラボ商品を作ってみたいですね」と答えました。以前、美大生が来店したとき「大漁旗は構図が素晴らしいですね」と言われたことを記憶しているのですが、昔ながらのデザインも魅力である一方で、自分にはない発想を取り入れることも大切だと考えています。それによって新しい層にアピールし、新しい用途の開拓が期待できるからです。
そうそう、と思い出したように三冨さんが手にしたのが店に陳列してあった「手ぬぐい」のお土産。これもアピールの一つです。飾り旗はハードルが高いという方もいらっしゃるだろうから、お土産品として手ぬぐいを用意しようと三冨さんが考えたものです。印刷と違って、裏もしっかり染まっていることから伝統技能の素晴らしさを実感してもらえるでしょう。三崎にはグルメのお土産は多くありますが、この手ぬぐいはモノのお土産として喜ばれるはず。機会があればぜひ手にとってみてください。

【企業・団体の皆様へ】
「三浦半島百貨店」にて三富染物店の「出張染物体験」をコーディネートいたします。
皆で1枚の大きな「旗」を作ったり、お店で体験出来るお一人様用の「ミニ大漁旗染物」も出張いたします。企業の研修・イベントの文化体験コンテンツとしていかがでしょうか。
詳しくは下記「三浦半島百貨店」お問い合わせフォームよりお気軽にご相談ください。
※参加人数:10名~30名程度まで