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くろば亭 山田拓哉さん

世界で一番楽しいまぐろ料理を作り、
地域食材を大切にしていきたい

三崎港界隈の飲食店でも特に長い行列ができる「くろば亭」。まぐろの独創的な料理と三浦半島の地魚、新鮮野菜を使った料理で知られ、週末ともなれば300人以上のお客さんが押し寄せます。50年前に「くろば亭」を開いたのは「おやじ」こと山田芳央さん。今回の主役はその「おやじ」と二人三脚でメニュー開発をし、今や料理長として活躍する息子の山田拓哉さん。まぐろへの、料理への熱い想いに迫りました。

小さい頃に味わった父の料理が料理人を志す原点

三浦半島における有名店の一つ「くろば亭」。忙しい店を切り盛りしているのは、山田拓哉さん。父の芳央さんは「くろば亭のおやじ」と慕われ、多くのメディアに登場しているのでご存じの方も多いことでしょう。また、際立ったキャラクターもさることながら、それまでになかったまぐろ料理を数々開発し「くろば亭」の名を高めた稀代の料理人でもあります。芳央さんは、若い頃にフレンチのシェフをしていたのだそう。さらに、中華やエスニック料理なども学んだ経験が。

「私が小学生の頃は、飲み屋主体のお店で、夜遅くまで開けていました。父が夜食でグラタンやピザ、ハンバーグなんかを作ってくれたんです。それがもう美味しくて、美味しくて。今でも忘れられない味ですね」

拓哉さんは「おやじの味」の思い出を語ります。

その経験から料理人としての父に憧れ、15歳のとき「料理をやりたい」と宣言。息子の決意を受けて、芳央さんは飲み屋から料理店への変更を決めました。

父親が親方になって、新生くろば亭の出発

その後、拓哉さんは料理学校を出て、日本料理店で修業の後、くろば亭に入ります。そこから父が料理の師匠、親方になりました。くろば亭は当時、親方の意向で鹿やダチョウなどの食材を扱っていましたが、経営は思い通りではなかったそうです。そんな折、近所の人から「まぐろをやんなきゃ」と言われたのがきっかけで一念発起、まぐろ中心の食材の店に舵を切ります。

「飲み屋時代のお客さんは船員さんが多く、この部位を使って料理してくれ、といったケースも多かったのですから、まぐろをどう扱えばいいか親方は熟知していたのです。」

まず、まぐろビントロ丼を出し、それがテレビで紹介されて知られるようになりました。さらに親方が創作料理を次々と開発して、人気に火がついていきました。

努力では負けない、その思いで続けた研究と挑戦

その陰には人知れぬ秘話もあります。当初は資金に限りがあったので大量にまぐろを買い付けることができませんでした。そこで選別として使われる尻尾をもらい、さばいて身をとって、アイデアと工夫で商品化し「鮪無国籍料理」の土台がつくられてきたのです。

「親方は天才的」と拓哉さんは評します。
勘とフィーリングで調理するので、レシピがなかったそうです。くろば亭に入って、親方を間近で見て、その技術や考え方を学んできましたが「料理では親方にかなわない」と今でも感じています。
しかし、と続けて「それなら努力では負けないと決めたんです」と拓哉さんは力を込めて言いました。その意志のもと、時間を惜しんで研究を重ね、チャレンジを続けてきました。努力は実を結び、いつしか商品開発は親方との二人三脚になっていました。調理場を任せてもらうようになったのは10年ほど前のことです。

最も美味しい地魚を自分の目で確かめて出したい

くろば亭の「ウリ」はまぐろだけではなく、地魚も人気メニュー。
そのこだわりも半端ではありません。拓哉さんは、5時には店に出て朝一番の仕込みを始め、一時間ほどするとそそくさと外出。行き先は、漁港です。
三浦半島には多くの漁港があり、春は初ガツオ、サワラなど、夏はアジやキスといったように一年を通してさまざまな旬の魚が水揚げされています。

「魚を一から見たいから、そのためには水揚げのタイミングがいい。市場に並んだものを見ても駄目なんです。船からきたときのコンディションを見ないと気が済まない。それで自分がコレだと思った魚を仕入れたいんです。」

そうした地魚は地元野菜と相性がいい、と言います。その言葉通り、くろば亭のまぐろ料理の多くにも新鮮な野菜が添えられています。

「ローカル・イングレディエント(Local Ingredient/地域食材)を大切にしたい」と言う拓哉さんは、三崎朝市で新鮮野菜を仕入れ、地元の農家から収穫のタイミングを聞いて仕入れ、ときには栽培する野菜のリクエストを出すこともあるそうです。


三浦野菜を添えて出される、くろば亭人気メニューの一つ「まぐろホホ肉のステーキ」

内蔵料理の復活、それは郷土料理への愛情

1年半以上続いているコロナ禍において、くろば亭も大変な時期を過ごしてきたかと思いきや、「研究する時間もとれて良かったです」と拓哉さんは笑います。新たに開発したメニューが「まぐろの内蔵料理」。

「内蔵料理は三崎の郷土料理」と拓哉さんは言います。まぐろ船の漁師は陸に上がるとき家族の手土産として内蔵を持ち帰ったそうです。そして「次の日は町中が胃袋を炊いている匂いがした」ほどだったそうです。

しかし段々と内蔵を料理する家庭もなくなっていくなかで、復活させたいという思いでメニュー開発に取り組んできました。色々と研究し都内のレストランでも使われるような下ごしらえの方法を見出しました。仕込み次第で絶品になるという自信を得て、時代に合った郷土料理を作っていくこともこれからのテーマです。

まぐろと地域食材のハイブリッドメニューへ挑戦

内蔵料理のほかにもこの2年間で、まぐろの目玉の刺身、頭の刺身など新しいメニューは次々と開発されています。最近メガヒットの気配を感じさせるのは、食材を漬けることにより、おいしく育てる「zukefarm 漬屋」。まぐろの切り落しを醤油、塩麹、味噌などに漬け込んだ「漬け」は、わずか1時間半ほどで70キロ分が完売するほどの人気商品です。
「zukefarm 漬屋」は三崎朝市に出店していますので、朝市にお越しの際は、是非「新しいくろば亭」の味をお楽しみください。

今も閉店後の夜9時以降は、メニュー開発、研究にあてているという拓哉さん。次に何をしかけていこうと考えているのでしょうか。

「たとえばまぐろとお肉、野菜を合わせたハイブリッドなメニューを研究しています。さまざまな部位をどんな食材とどう組み合わせていけば、美味しくて、皆さんが驚くような料理ができるのか、日夜考えています。」

まぐろと地域食材にこだわった挑戦はまだまだ続いていきます。